金峰火山の恵み
熊本市内には阿蘇山と同じ二重式火山があります。金峰火山です。「二重式火山」とは、火山の火口の中に火山があるものをいいます。外輪山に囲まれた大きなくぼ地のカルデラの中に火口があり、そこにさらに火山を持つものです。
阿蘇山は、大観峰や俵山などの山並みが外輪山を形成します。カルデラ内に見えるのは、約4万人の人びとが暮らす阿蘇市・高森町・南阿蘇村の町並みや、中岳をはじめとする複数の山々が集まった中央火口丘群です。金峰火山の場合、金峰山が中央火口丘で、麓のカルデラ内の西区河内町岳や面木などの集落で人びとが生活を営んでいます。荒尾山や二ノ岳など金峰山の周囲に見える山々が外輪山です。芳野中学校などは、外輪山の内側の中腹部に立っています。金峰火山は、阿蘇山と同じように地層が溶岩層であることから地下水が豊富です。環境省による平成の名水百選では、「金峰山湧水群」として選ばれています。
また、熊本藩の藩主・細川忠利の客分だった剣豪・宮本武蔵が『五輪書』を書き始めたとされる霊巌洞は、溶岩層がつくった天然の洞窟です。小説『草枕』は、夏目漱石が東側の外輪山の峠を越えてカルデラ内を通り、西側の外輪山の峠を越えて歩いた小天温泉(玉名市)への旅行をモチーフに書かれた作品です。金峰山地が火山であり、外輪山とカルデラを持つ二重式火山であったことが、武蔵や漱石の名著が生まれたひとつの条件だったのかもしれません。