約300の住居が確認された集落は埋め戻されている。

　邪馬台国の所在地論争は「魏志倭人伝」の解釈の違いにより起こった。この文書は西暦220年から280年の三国時代における中国の正史、『三国志』の中の約2000文字にすぎない。『三国志』は「魏書」30巻、「蜀書」15巻、「呉書」20巻からなり、「魏書」に記された「東夷伝」の「倭人」の部分を通称「魏志倭人伝」という。
　候補地は福岡・佐賀・奈良をはじめ東北地方や海外にも及ぶ。論争は江戸時代に始まり、「九州説」と「畿内説」を軸に展開されてきた。
　大正時代になると北部九州にあった邪馬台国が畿内に移動したという、「東遷説」が現れた。これにより候補地のひとつとされているのが、朝倉市を中心とする筑後川流域のエリア。
　この説によると、かつてこの地にあった邪馬台国が「クニ」ごと大和（奈良県）へ移動し、地名をほぼそのまま使用した。そのため、地名や位置関係が奈良を中心とするエリアと類似しているという。
　「魏志倭人伝」は、3世紀末に編さんされたもの。朝倉市で見つかった平塚川添遺跡は弥生時代後期、2世紀から3世紀にかけて最盛期を迎えた大集落。集落の周囲に複数の堀を巡らせた多重環濠が特徴で、堀の底からは漁具や農具などが発掘された。現在は遺跡公園として整備され、環濠や建物、草木などを復元。中央集落には2棟の祭殿の周囲に竪穴住居を配置、南側には高床倉庫が建てられている。

参考資料：安本美典『古代史論争最前線』柏書房、他

複数の堀に取り囲まれた多重環濠集落。